日々是好日

備忘用読書メモ。主に感想・学んだことなどを記載

可変思考

 

可変思考 (光文社文庫)

可変思考 (光文社文庫)

 

 書評ブログでおすすめされていたので読んでみる。

 

高名な学者が自分の専門外も含めた一般的な事柄について思うことを書いたエッセーで、こういうのって面白い時と全く面白くない時があるが、この本は前者の方ですごく面白かった。

 

たぶん理由は、著者がこの本で数学的な物の考え方、見方を紹介し、それを日本社会や個人が直面している問題に対処する上でどのように役立つかを紹介しているからだと思う。つまり専門外のことを語っているようで、実は自分の専門で得た知識を活用しているからだとおもった。そういうことができるのは、この人が学んでいる数学という学問が特に抽象的、普遍的だから適用範囲が幅広いのかもしれない。

 

著者の主張のキーワードは可変。ロボットと人間の違いも可変性で説明している。たとえばロボットが腕を動かしているところに人間が顔を出すと、ロボットは腕を止めずに人間の顔を叩き抜いてしまう死亡事故が起こるが、人間が同じ作業をしている時は人が顔を出したら普通は動かしている腕を止められる。ようはロボットは”動く”、”止まる”の2つの命令しか受け付けず、”動く”の指示を受けている間は止まることはないが、人間は”動く”の指示が出ていても状況に応じて柔軟に止まれる。そういう可変性がある。

可変とはどういうことかというと数学的には、変数が一つ多いつまり次元が多いということだと著者は主張する。

そしてこの次元を増やすというのがキーとなっている。N次元で特異点(問題点)がある場合、N+1次元にしてその特異点を解消するというのが数学の手法であるようで、それを数学のみならず一般的な問題にも適用したらいいというのが著者の主張である。

例えば常に渋滞する交差点があった時に次元を一つ足して立体交差にすれば解消される

とか。

 

あとは、教授をやってらっしゃるだけあって子育てや教育に関する自論を展開されていてそれが個人的には面白かった。

 

一番面白かった記述は以下

広中さんがフィールズ賞を受賞された頃、雑誌の特集で灘高の生徒と広中先生に京大の数学の入試問題を解かせたらどちらができるか。という企画があったらしい。ただ、この企画は灘高側が、「生徒が勝つに決まっていて、先生に失礼だから断る。」といって実現しなかったそうだ。広中さんも勝てるとは思っていなかったので胸をなでおろしたとのこと。

これはどういうことかというと、大学入試で学ぶことは特殊技法であり数学家として大成するにはその技術は必要ないということ。では、学んだことは意味がないのかというと違うというのが広中さんの主張。曰く学力というのは学んで身に付けた知識のことではなく、”学び取る力”のことであり、それを養う教育には意味があるということ。

新しい問題が起こり、それについて必要な知識を学ぶ必要が生じた時に、いかに早く正確に学び取ってお葉できるかという能力が本当の学力。この力があれば、知識量が少なくとも恐れることはなく、どんな職業についてもこの力があれば成功できる。